東京高等裁判所 昭和41年(行コ)17号 判決 1970年11月27日
第一審原告
(第一七号事件被控訴人
第一八号事件控訴人)
住所・氏名別紙目録(一)(二)のとおり<略>
代理人
大蔵敏彦
小林達美
芦田浩志
第一審被告
(第一七号事件控訴人
第一八号事件被控訴人)
静岡市
代理人
堀家嘉郎
指定代理人
浅井昌一郎
外九名
主文
一、第一七号事件について
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
二、第一八号事件について
原判決中控訴人らの各請求を棄却した部分を左のとおり変更する。
被控訴人は、別紙目録(三)第二審請求追加認容一覧表記載の各控訴人らに対し、それぞれ同表認容額欄記載の各金員およびこれに対する昭和三九年二月六日以降右各完済に至るまで年五分の割合による各金員を支払え。
右同表記載の控訴人らのうち、同表備考欄に全部認容と記載してある控訴人ら(以下「甲グループの控訴人ら」と称する。)を除くその余の控訴人ら(以下「乙グループの控訴人ら」と称する。)のその余の各請求および右同表記載の控訴人らを除くその余の控訴人ら(以下「丙グループの控訴人ら」と称する。)の各請求はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用は、第一、二審を通じ(ただし、第一七号事件の控訴費用を除く。)、甲グループの控訴人らと被控訴人との間に生じた分は被控訴人の、乙グループの控訴人らと被控訴人との間に生じた分はこれを二分し、その一を乙グループの控訴人らの、その一を被控訴人の、丙グループの控訴人らと被控訴人との間に生じた分は丙グループの控訴人らの各負担とする。
事実
第一七号事件控訴代理人は、第一次的に「原判決を取り消す。被控訴人らの訴を却下する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決、予備的に「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人らの各請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、同事件被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
第一八号事件控訴代理人は、「原判決中控訴人ら敗訴の部分を取り消す。被控訴人は控訴人らに対し、別紙目録(二)の「原審不認容債権額」欄記載の各金員およびこれに対する昭和三九年二月六日以降完済に至るまで年五分の割合による各金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、同事件被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張ならびに証拠関係は、左記のとおり訂正・付加するほか、原判決事実欄の記載と同一であるから、これを引用する。
一、<略>
二、第一審原告らの追加主張
第一審原告らは「朝の職員打合せ」ということで、午前八時三〇分以前の時間外勤務についての請求をしているところ、原判決は右部分の請求をいずれも棄却し、その理由の一として、第一時限の授業が開始されるまでに登校すれば遅刻としない取扱いであつたことを挙げているが、この判断は誤つている。
第一審原告らが勤務していた学校の日課表を仔細に検討すれば、次のことが明らかである。
(1) 第一時限の授業が午前八時三〇分以前に開始されている学校として、伝馬町小学校は土曜日のみ八時一〇分、城内小学校は毎日八時二〇分、安東小学校は土曜日のみ八時二〇分、青葉小学校は土曜日のみ八時一〇分、千代田小学校は土曜日のみ八時二〇分、賤機北小・中学校は昭和三七・三八年とも毎日八時二〇分、井宮小学校は毎日八時二五分、中島小学校は毎日八時二五分、服織中学校は毎日八時二五分、南藁科中学校は土曜日のみ八時五分、美和中学校は土曜日八時一〇分、月・火・水・木・金曜日八時二五分がいずれも開始時刻である。
(2) ホームルーム等特別教育活動が午前八時三〇分以前に開始されている学校として、横内小学校は毎日八時二五分、伝馬町小学校は月・火曜日八時一〇分、水曜日八時、木・金曜日八時一〇分、長田南小学校は毎日八時二五分、足久保小学校は毎日八時二〇分、森下小学校は毎日八時二五分、千代田小学校は火曜日八時二五分、月・水・木・金曜日八時二五分、青葉小学校は土曜日を除き八時二〇分、服織小学校は毎日八時二五分、安東小学校は月・火・水・木・金曜日八時二〇分、長田南中学校は月・火・水・木・金曜日八時二〇分、土曜日八時二五分、南藁科小学校は毎日八時二五分、城内小学校は毎日八時一〇分、井宮小学校は毎日八時二〇分、城内中学校は毎日八時二〇分、大里中学校は毎日八時二五分、東豊田中学校は毎日八時二〇分、安倍川中学校は毎日八時二〇分、賤機中学校は毎日八時二〇分、籠上中学校は月・火・水・木・金曜日八時二〇分、土曜日八時二五分、末広中学校は毎日八時二五分、安東中学校は毎日八時二五分、西奈中学校は毎日八時二五分、高松中学校は毎日八時二五分、長田西中学校は毎日八時一五分、美和中学校は月・火・水・木・金曜日八時一〇分、中藁科中学校は毎日八時二五分、南藁科中学校は月・火・水・木・金曜日八時一五分がいずれも開始時刻である。
三、第一審被告の追加主張
(一) 修学旅行および遠足について
労働基準法施行規則第二二条は、労働基準法第三七条所定の時間外割増賃金の計算の基礎となるべき労働時間の計算について、「労働者が出張、記事の取材その他事業所外で労働時間の全部又は一部を労働する場合で、労働時間を算定し難い場合には、通常の労働時間労働したものとみなす。但し、使用者が予め別段の指示をした場合は、この限りでない。」と規定している。この規定は、要するに、出張その他事業場外で労働時間の全部または一部を労働した場合には、時間外割増賃金は支払わないという原則を表明したものである。
本件において、第一審原告らの修学旅行または遠足の児童生徒の引率はまさしく右の原則に該当するものである。原判決の説示は、修学旅行の実態については優れた判断を示しているけれども、法律的には必ずしも厳格とはいえない点があるが、前記の規定に思いを致すならば疑問は氷解する。
さらに加えて、修学旅行にあたつては、出張命令が出され、旅費が支給される。旅費には鉄道賃、船賃、航空賃、車賃、日当、宿泊料、食卓料等が含まれており、いわゆる運賃のほかに日当、宿泊料等の実質的には割増賃金に該当し、あるいはそれ以上のものが含まれている。このことも第一審原告らの主張が失当であることを裏づける一の事情である。
(二) 朝の職員打合せについて
(1) 朝の職員打合せについては、原判決が認定したとおり、「各学校とも朝の職員打合せの時刻までに登校することを建前とはしていても、実際には始業時刻の後に定められている第一時限の授業が開始される迄に登校すれば遅刻(時間休暇)としない取扱いであつた。」
そもそも、時間外労働とは、労働者の諾否に関係なく使用者が一方的に労働力の提供を命令し、労働者がこれに服従する義務を負う関係をいうのであつて、命令を受けた労働者がこれに従わないときは就業規則違反の制裁を受けるべき立場に立つのである。本件事案において、職員会議についての労資関係もこれと全然同様であるにもかかわらず、原判決が職員会議について第一審原告の請求を認容したことは違法であるが、それはさておき、朝の職員打合せに関する関係は右認定のとおりであつて、これをもつて時間外勤務であるとする余地は絶無である。
(2) 第一審原告らの給料は月給で定められているから、労働基準法施行規則第一九条第一項第四号の規定により時間外割増賃金の計算の基礎となるべき賃金として一時間当りの金額を算出することになる。ところで、朝の職員打合せは五分ないし一〇分というような極めて短時間で行われるものであるから、かりにそれが時間外勤務であるとしても、このような一時間未満の時間外勤務の行われた場合の計算については労働基準法および同法施行規則にはなんらの定めもない。一方、「静岡市職員の給与に関する条例」第一七条は時間外勤務手当の支給について規定し、同第一九条は勤務時間一時間あたりの給与額の算定について「勤務一時間当りの給与額は、給料の月額(中略)に一二を乗じ、その額を一週間の勤務時間に五二を乗じたもので除して得た額」とする旨を規定している。しかして、同第二五条の「この条例施行について必要な事項は、市規則で定める」旨の規定に基づいて「静岡市職員の給与に関する条例施行規則」が制定されているが、同規則第九条第二項は、「時間外勤務手当の支給の基礎となる勤務時間数は、その月分をそれぞれ支給率の異なる部分ごとに通算し、それぞれ一時間に満たない端数があるときは、三〇分以上を一時間とし、三〇分未満を切り捨てる。」と規定している。静岡県の給与条例および規則にも全く同様の規定が設けられているが、これらの各規定は静岡県および静岡市の全職員に適用されているのであり、したがつて、第一審原告の主張が失当であることは明らかである。
四、…………<略>
理由
一、当裁判所の判断として、まず、左記に訂正ならびに付加するほか、原判決理由一から六までおよび同七のうち冒頭から原判決原本二九枚目表一行目の「認容し」までを引用する(ただし、同二八枚目裏七行から八行目の括弧内を削除する。)。すなわち、修学旅行および遠足の引率・付添の勤務についての時間外勤務手当請求に関するものを除いては、概ね原審とその見解を同じくするものである。
(1) 原判決原本一五枚目表一一行目の「考えるのに、」の次に「かりに、第一審被告主張のごとく、時間外勤務手当の負担者が静岡県であつて第一審被告ではないとしても、そのことは、本訴請求を実体上理由なからしめる根拠とはなつても、第一審被告の本訴における当事者適格を失わせる理由となるものでないことは明らかであるから、第一審被告の右本案前の主張はそれ自体理由がなく、また、」と挿入する。同裏七行から八行目の「被告の被告適格を欠く旨の主張は」を「第一審被告の右時間外勤務手当の支払義務者が静岡県である旨の主張も」と変更する。
(2) 原判決原本一六枚目表七行目の「尋問の結果」の次に「当審証人……の各尋問の結果」と挿入し、同八行目の「認められる。」の次に「そして、この認定を動かしうる証拠はない。」と付加する。
(3) 原判決原本一九枚目表末行の「一、」を「二、」に改め、同二〇枚目裏一行から二行目の「地方公務員法第五八条第三項」の次に「(現行法第五八条第四項)」と挿入し、同二行目の「受けて行う」の次に「か、もしくは労働基準法第三六条の規定による」と挿入し、同二一枚目裏一一行から一二行目の「服従しなければならないものと」を「服従せざるを得ないような立場に置かれているものと」と変更する。
(4) 原判決原本二三枚目裏六行目と七行目の間に、次のことを挿入する。
「なお、義務教育費国庫負担法第二条および市町村立学校職員給与負担法第一条は、給与の種類を限定列挙し、ことに後者の第一条は、時間外勤務手当に限つてとくに括弧書を付して『事務職員に係るものとする。』と明記しているけれども、これらの法律は、公立の義務教育諸学校の経費負担者をいずれにするかについて規定しているものにすぎず、これによつて教職員の給与を規定したものではないから、右法条の規定を根拠として教職員の時間外勤務手当請求権を否定することはできない。また、地方交付税法において、教育費のうちの時間外勤務手当が事務職員についてのみ計上されていることについても、同様のことがいえるのであつて、同法もその第一条に掲げる目的のために制定されているにすぎず、教職員の給与を規定したものではないのである。」
(5) 原判決原本二四枚目表二行目から同二五枚目裏末行まで(同所(一)の説示全部)を削除し、その部分に対する判断説示を後記三のとおりに改める。
(6) 原判決原本二六枚目表四行目の「本人尋問の結果」の次に「当審証人……の各本人尋問の結果」と挿入する。
(7) 原判決原本二六枚目裏八行目の「法規は見当らず」の次に「(もつとも、静岡県においては、昭和四一年七月八日『学校職員の勤務時間等の特例に関する規則―昭和四一年静岡県教育委員会規則第五号』を制定して、以後変形八時間労働制をとることになつたが、本件には適用されないことはいうまでもない。)」と挿入し、同二六枚目裏八行目および同二七枚目裏二行目の各「一、」をいずれも「二、」と、「時間規則」を「勤務時間規則」と、同四行から五行目の「時間条例」を「勤務時間条例」とそれぞれ改める。
(8) 原判決原本二八枚目裏一行目の「理由がない。」の次に「以上の法理は、修学旅行ないし遠足の引率・付添の勤務についての時間外勤務手当請求に関しても同様にあてはまるものである。」と付加する。
(9) 原判決原本二八枚目裏七行から八行目の括弧内を全部削除する。
(10) 原判決添付別紙明細表を左のとおり訂正する。<略>
二、第一審原告らの当審における追加主張について
第一審原告らは、本訴において「朝の職員打合せ」の時間としてそれぞれ午前八時三〇分まで勤務したことを理由として時間外勤務手当を請求しているが、実際には第一時限の授業が午前八時三〇分以前に開始された十数校、ホームルーム等特別教育活動が午前八時三〇分以前に開始された二十数校がそれぞれ存在するとして、その各開始時刻を列挙しているが、かりに、右第一審原告らの主張するとおりの各時刻にその主張の各小・中学校の第一時限ないしホームルーム等がそれぞれ開始された事実があるとしても、第一審原告らは本訴において原審以来一貫して右の時間につきいずれも「朝の職員打合せ」の時間として勤務したことを理由として時間外勤務手当を請求しているのであるから、右の時間について時間外勤務を求める本訴請求が失当であることは原判示のとおりであるというほかなく、所論は採用できない。
三、修学旅行および遠足における引率・付添の勤務について(第一審被告の当審における追加主張(一)の判断を含む。)
学校行事のうち、修学旅行および遠足等のごとく第一審原告らがそれぞれその勤務する所属学校を離れて勤務に服する場合には、職員が公務のため一時その在勤官署を離れて旅行することになり、いわゆる出張として旅費が支給されるが、その支給方法は条例で定めなければならないこととされているところ(地方自治法第二〇三条、第二〇四条、地方公務員法第二四条第六項、地方教育行政の組織および運営に関する法律第四二条、市町村立学枚職員給与負担法第一条、第三条)、第一審原告ら教職員については静岡県において右条例が未制定であるため、なお従前の例によることとされ(地方公務員法附則第六項)、結局、国立学校の教育公務員の例により、国家公務員等の旅費に関する法律(昭和二五年法律第一一四号)によることとなる。
ところで、第一審原告らが出張して公務に従事する場合は、一応正規の勤務時間内公務に従事したとみられるけれども、「給与規則」第二七条第二項によれば、「公務により出張中、出張目的地において正規の勤務時間をこえて勤務すべきことを任命権者があらかじめ命じた場合においてその勤務時間につき明確に証明できるものについては、時間外勤務手当を支給する。」と定められているところ、本件の場合は、前記当審の事実認定(原判決引用)に供した各証拠によれば、第一審原告らの所属する各学校においては、修学旅行や遠足を実施するにあたつては、その目的、日程、引率者もしくは費用等について計画案を作成し、これを学校長の名をもつて静岡市教育委員会に承認を求め、その認可を得てから実行しているものであつて、右計画によれば、第一審原告らの主張する原判決添付別紙明細表に各記載のごとき時刻がその行事の集合時刻、乗車、出発時刻あるいは就寝時刻、起床時刻、さらには静岡駅着時刻、解散時刻等と定められていること(もつとも、これらの時刻のうちの若干につき明記されていない計画表もあるが、その場合でもその記載事項の前後の関係から右の点はおのずから明らかとなる。)、右旅行や遠足が計画どおり実施され、第一審原告らがその主張のとおり各所属学校長のあらかじめなした命令によつてこれに参加し、その主張の各時間外勤務をしたことが明確に証明できること(ただし、原判決添付別紙明細表備考欄に×印を付したもの――当審において前示一(10)(イ)(ロ)(ニ)(ヘ)で右同欄を訂正した後のものによる――を除く。)がいずれも認められ、そして、この場合右各学校長が右規則第二七条第二項にいう任命権者にはあたらないけれどもこのような学校長の命令により現実になした時間外勤務に対し第一審原告らがその主張の各時間外勤務手当請求権を取得すると解すべきことは、原判決理由三(当審引用)に記するところと同様である。
第一審被告は、本件修学旅行または遠足の引率付添の勤務については、労働基準法施行規則第二二条の規定が適用されるから、第一審原告らがかりに現実に勤務時間外に勤務した事実が認められるとしても、これに対して時間外勤務手当の支払請求権は発生しない旨主張する。思うに、同条が設けられた趣旨は、出張等同条に規定する場合は本来の勤務場所を離れて勤務するので、一般的にどのような勤務が現実になされたのか必らずしも明らかに把握できないため労働時間の算定が困難であるから、争いを避けるために規定されたものであり、したがつて、使用者が予め明示的または黙示的に別段の指示をした場合、この指示内容によつて労働時間の算定が可能となるかぎりその例外を設けることとし、同条にはその但書として「但し、使用者が予め別段の指示をした場合は、この限りでない。」と規定したものと理解すべきである。そして、前示「給与規則」第二七条第二項の規定も、右労働基準法施行規則第二二条本文に規定するような趣旨を当然の前提において、右但書とほぼ同じ趣旨のことを定めたものと解される。本件における修学旅行ないし遠足における第一審原告らの時間外勤務については、右「給与規則」第二七条第二項のほかに労働基準法施行規則第二二条の適用される余地があるとしても、前認定の事実関係からすれば、まさに同条但書が適用されるべき場合に該当するものと認められるから、同条本文の規定がそのまま適用される場合であることを前提とする第一審被告の主張は採用できない。
また、第一審被告は、修学旅行の引率・付添にあたつては旅費の支給があり、そのうちとくに日当、宿泊料等実質的には割増賃金に該当するものが含まれていることも、修学旅行については時間外勤務手当の支給を請求できない理由の一であると主張する。しかしながら、旅費は本来公務のために旅行する者に対してその旅行に必要な経費として時間外勤務の有無に関係なく支給されるものであつて、その本質は実費の支弁であり役務の提供に対する対価たる給与とは性質を異にするから、日当ないし宿泊料といえども実質的にも第一審被告のいうような割増賃金と理解すべきものではないないし、まして、時間外勤務手当をもカバーする意味をもつものではないから、右主張も採りえない。
さらに、(証拠)によれば、修学旅行は大体二日ないし四日で終るが、出発の前日および帰着の翌日には参加教職員の勤務が軽減されることを通例としていることが認められるが、このことは、旅行に際しての教職員ならびにに生徒の事前準備や疲労回復のための考慮によるものであることは公知の事実であり、そのことをもつて、修学旅行中に行われた時間外勤務時間の埋合せがなされたものである等と理解すべきでないことも、すでに前認定(原判示理由五の説示引用)のとおりである。
なお、原判決は修学旅行ないし遠足における引率ないし付添の勤務は、その実質において労働基準法第一条第三号にいう監視または断続的労働にあたり、客観的にみて同号の許可基準に該当するとしている。しかしながら、前段に挙示の各証拠ならびに当審における第一審原告田中弘の本人尋問の結果によれば右引率・付添の勤務は、児童・生徒に対する教育的効果の達成や危険の予防ないし発生した危険に対する善後措置の施行等極めて重大な責任を負担し、心神ともに不断の緊張およびその結果としての疲労を伴うものであつて、その労働の密度において決して右原判示のごとき性質のものでないことが認められ(とくに、観光ないしレクリエーション的色彩を多分に帯びるものとする原判示は論外である。)、これに反する証拠はない(原審および当審における証人野原籠雄の各証言には、修学旅行にあたつて引率・付添を希望する教職員が多い旨の供述があるが、かりにそのような事実があつたからといつて右認定の妨げとなるものではない。)。のみならず、かりに引率・付添の勤務が原判示のような実質をもつ労働であるとしても、本件において労働基準法第四一条第三号に規定する行政官庁の許可を受けたことについてなんらの主張・立証がないから、第一審被告は同法を適用することによつて時間外勤務手当の支払義務を免れることはできないものというべきである。この点についても、「労働の性質ににおいてそのように解せられる以上行政官庁の許可を受けた者ではなくてもその違法性とはかかわりなく、かかる労働に対する対価としては、時間外勤務の割増賃金支払義務は発生しないものと解するのが妥当である。」とする原判示は、法律の解釈を誤つた不当の判断といわざるを得ない。
四、以上のとおりであるから、第一審原告らの本訴請求中、原告番号七八一、七八二、七八四、七八七、七八八、七九〇の各第一審原告らの昭和三七年四月二七日の職員会議出席による各時間外勤務手当の支払を求める部分ならびに第一審原告らの修学旅行および遠足の引率・付添の勤務による時間外勤務手当の支払を求める部分(ただし、当審において前示時間外勤務の事実があるものと認めた範囲に限る)は、いずれも正当であるから、右各時間外勤務に対し、その勤務時間数ならびに勤務手当額の計算につき当審引用の原判決理由七に記載の方法と同一の方法によつて算出した別紙目録(三)第二審請求追加認容一覧表記載の各金員とこれに対する支払期到来後の昭和三九年二月六日以降右各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求部分を認容すべきであり、右部分を棄却した原判決は不当であるから、その限度において取消を免れない。そして、原判決は、右部分を除くその余の請求について認容しまたは棄却した限度においては結局相当というべきであるから、第一七号事件の控訴人の本件控訴はすべて理由がなく、第一八号事件の控訴人らの本件控訴は一部理由がないことに帰する。
よつて、訴訟費用の負担につき民訴法第九五条、第八九条、第九六条、第九二条、第九三条に従い、主文のとおり判決する。(桑原正憲 高津環 浜秀和)